研究内容

光電子分光を主な実験手法として高温超伝導体、強相関電子系の研究を行っています。

高温超伝導体の電子構造

高温超伝導体について

1986年にベドノルツとミュラーによって発見された高い超伝導転移温度を持つ銅酸化物を一般に高温超伝導体と呼びます。 発見から30年以上経過しますが、高温超伝導が発現するメカニズムは未だに解明されていません。 銅酸化物高温超伝導体は、銅と酸素のネットワークで出来た2次元面 (CuO2面) にホールなどのキャリアをドープすることにより超伝導が発現します。 2008年には鉄系高温超伝導体が日本の研究グループにより発見されましたが、この物質も銅酸化物と同様にFeとAsの2次元構造を持っています。 従来型の超伝導で格子振動を媒介として電子対(クーパー対)を組みますが、高温超伝導体では媒介する相互作用の正体が明らかになっていません。 私たちは光電子分光法を使って電子対形成機構の解明を目指した研究を行っています。

角度分解光電子分光(ARPES)

高温超伝導などの複雑な物性の起源を調べるには、電子を固体内部から直接取り出して分析する方法が有効です。 角度分解光電子分光(ARPES)は、固体中の電子を光電効果によって取り出し、電子のエネルギーバンド分散やフェルミ面、超伝導ギャップなどの電子構造を直接観測することができる実験手法です。私たちは放射光を用いた光電子分光により高温超伝導の電子状態観測を行い、超伝導機構の解明を目指しています。

高温超伝導体Bi2212の準粒子構造

強相関電子系の電子構造

物質中には約1023個の電子がいるので、すべての電子間でクーロン反発を考えることは非常に難しいと言えます。しかし、高温超伝導体の発見以降、電子相関が強い物質が多彩な物性を示すことが明らかになってきました。そのため、電子相関を理解することは物性物理学において重要で挑戦的な課題と言えます。 図のように通常の金属状態では電子相関が弱く、電子同士はお互いを感じることなく自由に動き回ることができます。しかし、電子相関が強い物質では、電子同士が近づくとクーロンエネルギーが大きくなるため、各々の原子核付近で電子が動かない状態になります。このような電子相関に起因する絶縁体を「モット絶縁体」とよびます。私たちは、モット絶縁体に近い物質を光電子分光法で研究しており、一部の電子が電気伝導に寄与できない「擬ギャップ」状態が明らかになってきました。この金属と絶縁体の狭間の状態こそ、高温超伝導を生み出す背景となる電子状態であり、高温超伝導の解明と並び、電子相関を理解する枠組みの構築を目指しています。

電子相関の概念図 (左)電子同士の反発が強い状態。(右)通常の金属状態